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◎甲状腺とは
甲状腺は、のどぼとけの下にある蝶(チョウ)が羽を広げているような形をした臓器で、甲状腺ホルモン(FT3、FT4)を作っています。
甲状腺ホルモンは、血液に乗って全身の臓器に運ばれ、体の代謝を活発化したり、成長を促進するなど、大切な働きをしています。
また、下垂体より分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって、血液内の甲状腺ホルモンが多すぎたり、少なすぎたりしないよう調節されています。
甲状腺の位置と大きさ
甲状腺機能による分類と成人女性における頻度(※)
| 甲状腺中毒症(0.2~2%) | 甲状腺機能正常(20%以上) | 甲状腺機能低下(0.9~2%) |
|---|---|---|
| バセドウ病(Graves病) | 橋本病 | 特発性粘液水種 |
| 中毒性多結節性甲状腺腫 | 地方病性甲状腺腫 | 橋本病 |
| プランマー病 | 腺腫様甲状腺腫 | 先天性甲状腺ホルモン合成障害 |
| 亜急性甲状腺炎 | 良性腫瘍 | ヨウ素欠乏 |
| 無痛性甲状腺炎 | がん腫 | 下乗体機能低下症 |
| 橋本病の急性憎悪 | ||
| TSH産生腫瘍 |
◎甲状腺中毒症の原因(※)
- バセドウ病(中毒症に占める割合65%)
- 無痛性甲状腺炎(中毒症に占める割合16%)
- 亜急性甲状腺炎(中毒症に占める割合8%)
- 機能性甲状腺腫瘍
- サイクロキシン過剰投与
- 妊娠甲状腺機能亢進症(GTH)
- 薬剤性甲状腺機能異常
- アイソトープ治療後甲状腺炎
- 橋本病急性増悪
- TSH不適合分泌症候群(Syndrome of Inappropriate Secretion of TSH:SITSH)
甲状腺中毒症の鑑別
甲状腺機能中毒症の治療法
| ステロイド 鎮痛薬 |
βブロッカー | 放射性ヨウ素 治療 |
抗甲状腺薬 | 手術 | |
|---|---|---|---|---|---|
| バセドウ病 | ○ | ○ | ○ | ○ | |
| 機能性甲状腺腫 | ○ | ||||
| 下乗体TSH産生腫瘍 | ○ | ||||
| 無痛性甲状腺炎 | ○ | ||||
| 亜急性甲状腺炎 | ○ | ○ | |||
| 橋本病急性増悪 | ○ | ○ | |||
| 診断未確定 | ○ |
◎バセドウ病とは
バセドウ病とは、抗TSH受容体抗体(TRAb)という甲状腺を刺激する自己抗体が産生され、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることにより、動悸、手のふるえ、発汗過多、下痢、体重減少、イライラ、不妊・流産、眼球突出などさまざまな症状を引き起こす病気です。
自己免疫疾患の一種で、女性に多くみられます。
バセドウ病の診断ガイドライン
| (A)臨床所見 |
|---|
| 1.頻脈、体重減少、手指振戦、発汗増加等の甲状腺中毒症所見 2.びまん性甲状腺腫大 3.眼球突出または特有の眼症状 |
| (B)検査所見 |
|---|
| 1.遊離T4、遊離T3のいずれか一方または両方高値 2.TSH低値(0.1μU/ml以下) 3.抗TSH受容体抗体(TRAb, TBII)陽性、または刺激抗体(TSAb)陽性 4.放射性ヨード(またはテクネシウム)甲状腺摂取率高値、シンチグラフィでびまん性 |
- (A)の1つ以上に加えて、
(B)の4つを有するもの - バセドウ病
- (A)の1つ以上に加えて、
(B)の1、2、3を有するもの - 確からしいバセドウ病
- (A)の1つ以上に加えて、(B)の1と2を有し、
遊離T4、遊離T3高値が3カ月以上続くもの - バセドウ病の疑い
【付記】
- 1.コレステロール低値、アルカリフォスターゼ高値を示すことが多い。
- 2.遊離T4正常で遊離T3のみが高値の場合がまれにある。
- 3.眼症状がありTRAbまたはTSAb陽性であるが、遊離T4およびTSHが正常の例はeuthyroid Graves' diseaseまたはeuthyroid ophthalmopathyといわれる。
- 4.高齢者の場合、臨床症状が乏しく、甲状腺腫が明らかでないことが多いので注意をする。
- 5.小児では学力低下、身長促進、落ち着きの無さ等を認める。
- 6.遊離T3(pg/ml)/遊離T4(ng/dl) 比は無痛性甲状腺炎の除外に参考となる。
- 7.甲状腺血流測定・尿中ヨウ素の測定が無痛性甲状腺炎との鑑別に有用である。
(日本甲状腺学会 甲状腺疾患診断ガイドライン2010より)
バセドウ病の治療法
| 内科治療 | アイソトープ治療 | 外科治療 | |
|---|---|---|---|
| 内容 | 抗甲状腺薬(経口) | 放射性ヨウ素(経口) | 甲状腺亜全摘術 または 全摘術 |
| 選択率(日本) | 80-88% | 11-19% | 1% |
| 利点 | ・簡便 ・外来加療 |
・高寛解率 ・甲状腺腫縮小 ・外来加療可 |
・高寛解率 ・早期治療 ・甲状腺腫縮小 |
| 欠点 | ・副作用 ・低寛解率 ・奇形出産合併症報告 |
・妊娠・授乳中禁忌 ・晩発生甲状腺機能低下症 ・眼症悪化の可能性 ・要管理施設 |
・手術瘢痕 ・要入院 ・高コスト |
抗甲状腺薬の種類と特徴
| 一般名 | チアマゾール | プロピルチオウラシル |
|---|---|---|
| 商品名 | メルカゾール | チウラジール(プロパジール) |
| 略称 | MMI | PTU |
| 製薬 | 5mg錠 | 50mg錠 |
| 作用機序 | 甲状腺内でのヨウ素の酸化・有機化の抑制 | |
| 効力(1錠当たり) | 強い | 弱い |
| 半減期 | 長(6時間) | 短(75-150分) |
| 副作用 | 投与量によって容量依存性があります ごく稀に無顆粒球症、劇症肝炎など |
依存性はありません ごく稀に重症肝炎や腎障害など |
| ANCA陽性血管炎 | まれに有り。PTUに多い。 | |
| 胎盤通過性 | 中等度 | 低 |
| 乳汁分泌性 | 中等度 | 低(MMIの1/10程度) |
| 重症胎児奇形報告 | まれに有り。MMIの方に多い。 | |
| その他 | 脱ヨウ素酵素阻害作用 | |
抗甲状腺薬の副作用
| 副作用 | 頻度 | 出産時期など | 対応 |
|---|---|---|---|
| 無顆粒球症 | 1/500-1000 | 2週間~3カ月 | 抗甲状腺剤中止 G-CSF投与 |
| 蕁麻疹・皮疹 | 1/10 | 2~3週間 | 抗アレルギー剤 抗甲状腺剤中止 |
| 肝障害 | まれ (重症例はPTU投与に多い) |
2週間~3カ月 甲状腺機能異常による肝機能異常との鑑別に注意 |
抗甲状腺剤中止 |
| ANCA陽性血管炎症候群 | まれ | PTUに多い 賢炎や間質性肺炎に注意 |
抗甲状腺剤中止 |
| インスリン自己免疫症候群 | まれ | MMI特有 低血糖症状 |
MMI中止 |
◎チアマゾール奇形症候群(Methimazole embryopathy)
バセドウ病は20~30歳代の若い女性に多くみられ、通常抗甲状腺薬による治療を行っています。
抗甲状腺薬にはチアマゾール(MMI)とプロピルチオウラシル(PTU)の2薬剤がありますが、MMI服用のバセドウ病患者の新生児に頭皮欠損、臍帯ヘルニアなどの奇形の報告があります。
- 後鼻孔閉鎖症
- 食道閉鎖症
- 気管食道瘻
- 頭皮欠損症
- 臍腸管異常
- 臍帯ヘルニア
◎甲状腺機能低下症の原因
| 原発性甲状腺機能低下症 |
|---|
| 橋本病(慢性甲状腺炎) |
| 萎縮性甲状腺炎 |
| 先天性(発生異常、合成障害) |
| 無痛性甲状腺炎の一時期 (出産後によくみられる) |
| 亜急性甲状腺炎の一時期 |
| ヨード摂取過多 |
| 医原性疾患 放射性ヨード治療、頸部放射線外照射、甲状腺摘出術、薬剤性 (抗甲状腺薬の投与など) |
| 中枢性甲状腺機能低下症 |
|---|
| 腫瘍(下乗体腺腫、頭蓋咽頭腫など) |
| 血管障害(Sheehan症候群など) |
| リンパ球性下垂体炎 |
| 感染症(結核など) |
| 肉芽腫(サルコイドーシスなど) |
| TSH単独欠損症 |
| TSH単独欠損症 |
| 医原性疾患 頭部放射線照射、手術、薬剤性 (副腎皮質ステロイド剤、ドパミンなど) |
甲状腺機能低下症の症状や検査所見
| 症状 |
|---|
| 髪の毛が抜ける |
| 顔や手がむくむ |
| 物忘れがひどい |
| あまり食べないのに太る |
| 寒がり |
| 便秘がち |
| 生理の量が多い |
| 皮膚がかさつく |
| 検査値の異常 |
|---|
| コレステロール高値 |
| AST(GOT)、ALT(GPT)高値 |
| CPK高値 |
| 貧血(一般に正球性または大球性) |
| CEA軽度上昇 |
| γ-グロブリン、ZTT高値(注:橋本病の場合) |
◎慢性甲状腺炎(橋本病)とは
●1912年 橋本策博士がドイツの医学雑誌に発表
●病理学的特徴
・甲状腺実質へのリンパ球浸潤とリンパ濾胞の形成
・濾胞上皮の萎縮と好酸性変性
・間質の線維化
●原因
・甲状腺特異的自己免疫疾患
・主たる標的抗原はサイログロブリンと甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)
慢性甲状腺炎(橋本病)の診断ガイドライン
| (A)臨床所見 |
|---|
| 1.びまん性甲状腺腫大 ただしバセドウ病など他の原因が認められないもの |
| (B)検査所見 |
|---|
| 1. 抗甲状腺マイクロゾーム(またはTPO)抗体陽性 2.抗サイログロブリン抗体陽性 3.細胞診でリンパ球浸潤を認める |
- (A)および
(B)の1つ以上を有するもの - 慢性甲状腺炎(橋本病)
【付記】
- 1.他の原因が認められない原発性甲状腺機能低下症は慢性甲状腺炎(橋本病)の疑いとする。
- 2.甲状腺機能異常も甲状腺腫大も認めないが抗マイクロゾーム抗体およびまたは抗サイログロブリン抗体陽性の場合は慢性甲状腺炎(橋本病)の疑いとする。
- 3.自己抗体陽性の甲状腺腫瘍は慢性甲状腺炎(橋本病)の疑いと腫瘍の合併と考える。
- 4.甲状腺超音波検査で内部エコー低下や不均一を認めるものは慢性甲状腺炎(橋本病)の可能性が強い。
(日本甲状腺学会 甲状腺疾患診断ガイドライン2010より)
慢性甲状腺炎の自己抗体検査
| 慢性甲状腺炎の疑い | |
|---|---|
| 抗サイログロブリン抗体 (TgAb) | 抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体 (TPOAb) |
| サイロイドテスト (抗サイログロブリン抗体) | マイクロゾームテスト (抗甲状腺マイクロゾーム抗体) |
甲状腺機能低下症の治療
- 甲状腺ホルモンの補充療法である。
- 血中甲状腺ホルモンレベルを基準値レベルに保つことを目的とする。
- 一般的には、合成T4製剤(チラーヂンS=レボチロキシンナトリウム錠)を使用する。
◎甲状腺機能低下症妊婦のリスク
- ●顕性甲状腺機能低下症の妊婦
- 不妊、流産、早産、妊娠高血圧、妊娠糖尿病、死産、周産期死亡、分娩後出血、帝王切開、小児の知能、精神運動発達障害などのリスクが増加する。
- ●潜在性甲状腺機能低下症妊娠
- 不妊、流産、胎盤早期剥離、早産、子癇前症、周産期死亡などが増加する。
妊娠中の甲状腺ホルモン管理のためのTSH目標
| 妊娠前のコントロール目標 | Trimester | |||
|---|---|---|---|---|
| 1st | 2nd | 3rd | ||
| 米国甲状腺学会 (2011年) |
<2.5mlU/L | 0.1~2.5 | 0.2~3.0 | 0.3~3.0 |
| 米国内分泌学会 (2012年) |
<2.5mlU/L | <2.5 | <3.0 | <3.0 |
| 米国臨床内分泌学会& 米国甲状腺学会(2012年) |
<2.5mlU/L | <2.5 | <3.0 | <3.5 |
◎まとめ
| バセドウ病 | 橋本病 |
|---|---|
| びまん性甲状腺腫 | |
| 体重減少、食欲亢進、動悸、手がふるえる、下痢、全身倦怠感、発汗過多、筋力低下、骨粗鬆症、無月経、過多月経 | 体重増加、食欲低下、徐脈、便秘、嗄声、筋肉痛、こむらがえり、皮膚乾燥、脱毛、高コレステロール血症 |
| イライラ、不眠、集中力低下、意欲亢進 | 動作緩慢、眠がり、うつ状態、認知症、意欲低下 |
◎ヨード過剰摂取と甲状腺機能異常
ヨード誘発性甲状腺機能低下症
- ヨード接種が多い国で起こる
- 日本では、このタイプがほとんど
ヨード誘発性甲状腺中毒症
- ヨード欠乏地域で起こる
- 日本では、まれ
ヨードが多く含まれているもの
■海藻類
昆布、だし昆布
■薬剤
ヨード造影剤
アミオダロン
ヨウ化カリウム丸
イソジン
■市販のだしの素
裏の食品表示ラベルで成分を確認してください。
(※)参考文献
甲状腺疾患診断ガイドライン2013(日本甲状腺学会)
(http://www.japanthyroid.jp/doctor/guideline/japanese.html)(2020年04月24日に利用)
